学校日記

人の心を変える『そうじの力』

公開日
2014/01/09
更新日
2014/01/09

校長のこちょこちょ話

イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんのお話です。
鍵山氏は身をもって社会還元を実践する日本では稀な企業人です。「私も怒ることはありますが、決して人を恨まないんです。恨みはすさみを生み、世の中が悪くしかなりません。私はこの「心のすさみ」が大嫌いで、なくして少しでも社会をよくしたいと始めたのが、そうじという小さな行動でした。そうじをすると心が澄んでくるんですよ。」と鍵山氏は語りはじめます。
私が自動車業界に入った昭和20年代は業界全体が職場も乱雑、従業員も粗野で、汚い部品販売店に一般のお客さんなど来もしません。最初に勤めた会社で環境を変えなければダメだと、私はまずトイレそうじを始めました。理由は人がいちばんいやがる汚い場所だからですよ。よけいなことだといじめらましたが、職場から店まできれいにしていくうちに客層が上がって従業員のモラルも上がっていったんです。
最初は、「好きでやってるのか」という程度で、無関心でしたね。でも私は見返りを求めているわけじゃありませんから、社内そうじも洗車も毎日徹底しました。平日のそうじは業務外の早朝か夜なのですが、夜中に泥棒と思われて警察に踏み込まれたこともありました。
こちらがなにも言わないのに社員が自発的に手伝うようになるまで、10年かかりました。まず洗車、廊下、そして最後はトイレまでいきましたね。そのころには来店するお客さんが「君の店はよそとはちがう」と言ってくださるほど、社員は表情も気持ちよく、心からのサービスができるようになっていたのです。
今では社員のそうじ活動は社外にまで広がりました。新入社員にトイレそうじは体験させますが、毎朝のそうじは規則ではなく自発的なもの、参加できる社員でしています。
中目黒にある自社から国道246号線、駒沢通りあたりまで半径約2.5キロの道路や公園のゴミを拾い、10種類以上の資源ゴミに細かく分別するんです。ゴミ専用の倉庫も作ったし時間も手間もかかりますが、利益をあげる以上、それを社会に還元し役立てなければ企業としての意味がありません。
日本人は戦後、豊かさを手に入れる一方で、人への思いやりや公徳心といったものを失ったとつくづく思います。豊かさと温かな心を両方もてば人は本当の幸せを手に入れられるはずでです。
私は最初から素手でトイレそうじをしていますが、いちばん合理的に便器を磨きあげられるからなんです。小便器の水漉しなど持ちあげると茶色いどろどろの汚水がたれるほど汚れていますが、一度さわってしまえばウソのように躊躇は消えてしまいます。
汚さ臭さに躊躇すると臆病になると言う鍵山氏は、トイレそうじを通じて広島の暴走族を更正させた経験があります。嫌悪感むき出しの彼らを参加させたひと言が、「なんだ、勇気ないな」です。冗談じゃないと俄然ワルたちは素手で便器をつかみ、いつのまにか真っ茶色の便器をぴかぴかに磨く行為に夢中になっていったのです。最も汚い仕事に真剣になる大人を目の当たりにし彼らの心が動いた、浄化されたのです。
私は少年たちと同じ目線で話しましたが、誰にも同じ態度で接するのと同様に見えない人にも気をつかうことで世の中わずかでもよくなると考えているんです。
物を整理しそうじすることは頭をそうじすることでもあり、ムダや汚れに気づくようになる、ものごとに気づく人間は人にも気配りができ、喜ばすことができる人間です。
そうじ好きの両親から貧しくてもきれいに暮らせることを教わった鍵山氏の実践の伴う説得力のある言葉です。池田先生いいお話をありがとうございました。